原作 |
このサイトで取り扱ってる章 |
エリックはルアン近郊の小さな町の出身だった。彼は左官工事請負業者の息子として生まれたが、あまりの醜さに両親にまで忌み嫌われていたので、早くから家を出た。 |
ルーアン編 |
しばらくの間、彼は縁日の見世物にされ、興行主は彼を<生ける屍>として宣伝した。彼は縁日から縁日とヨーロッパ中を渡り歩き、芸能と奇術の本家本元、ジプシー達の間で、芸人・奇術師としての風変わりな教育の総仕上げをした。 |
このサイトでは、奇術師として完成されるほど長くジプシーの中にはいません。
ロシア前・後編 |
それからしばらくエリックがどのような生活をしていたかはっきりしない。 |
インド編
「はっきりしていない」と言いつつ、ダロガはエリックがインドに行った事があり、パンジャブの紐を習得したのは知ってます。 |
次に彼が姿を見せたのはボルガ河畔のニジニ・ノブゴロドの市場だったが、その時すでに、彼はおぞましい栄光に包まれていた。
当時から彼は、いまだかつて誰も歌ったことのないような美しい声で歌い、腹話術をやり、彼の曲芸は、アジアに戻る隊商が行く先々で話題にしたほど見事だった。
そのようにして彼の名声はマザンダランの宮殿にまで伝わった。
その頃宮殿では、ペルシャの寵姫が退屈していた。ニジニ・ノブゴロドからサマルカンドへ向かう毛皮商人が、エリックのテントの中で見た驚くべき光景の話をした。毛皮商人は宮殿に呼ばれ、マザンダランのダロガ(警察長官)が彼を尋問するよう命じられた。 それからダロガはエリックを探しに行く役目を仰せつかった。 |
ロシア後編 |
ダロガはエリックをペルシャに連れて戻り、その後数ヶ月間、エリックは思いのままふるまった。
彼は善悪の区別がつかないらしく、ずいぶん恐ろしい悪事を働き、巧妙な政治的暗殺にも何度か協力した時も、悪魔的な発明の才を発揮してペルシャの交戦国アフガニスタンの首長を倒した時も、同じように平然としていた。
ペルシャ皇帝は彼に目をかけた。この時期がダロガの手記に出てきた〈マザンダランのバラの時代〉なのだ。
エリックは建築について非常にユニークなアイディアを持っていて、手品師が考案するような魔法の箱のような宮殿を設計したので、皇帝はそのような建物の建築を彼に命じた。
エリックが完成した建物はとても精巧にできていたので、皇帝は誰も気づかれずにいたるところを歩き回り、どういう手を使ったか誰にもわからないやり方で姿を消すことができた。
そのような逸品を手に入れた皇帝は、モスクワの赤の広場の教会を建てた天才的な建築家に対して当時のロシア皇帝がやったように、エリックの黄金の目をくり抜くように命じた。
しかし、皇帝は、エリックはたとえ目が見えなくなっても、どこか他の国の君主のために、同じような驚異的な建物を作ってやることはできると気づいた。それにエリックが生きている限り、あのすばらしい宮殿の秘密を握っている者がいることになる。そこでエリックは、彼のもとで働いた職人達全員とともに、殺されることになった。
マザンダランのダロガがその言語道断な命令の実行を委ねられた。エリックは、それまで何度かダロがの約にあったし、ずいぶんダロガを笑わせていた。ダロガは彼を逃がし、命を救ってやった。
そんなふうに弱気になってエリックを見逃してやったせいで、ダロガは危うく死刑になるところだった。だが、幸運にも、そのころカスピ海の岸辺で海鳥に食い荒らされた死体が発見され、それがエリックの遺体だということになった。ダロガは失脚し、財産を没収され、国外へ追放されただけですんだ。彼は王族の血をひいていたので、追放後もペルシャの大蔵省は、月額数百フランのささやかな年金を彼に給付し続けた。そこで彼は、パリに来て亡命生活を始めた。 |
ペルシャ編 |
その間、エリックの方は小アジアを渡り、ついでにコンスタンティノープルに移り、そこでオスマントルコ皇帝に仕えた。ありとあらゆる恐怖にとりつかれていた君主にエリックがどのように仕えたかは、最後のトルコ革命のあと、イルディス・キオスクで見つかった有名な切り穴や秘密の部屋や不思議な金庫は、すべてエリックが作ったものだったと言えばわかるだろう。
また皇帝と同じ服を着て、本物と見間違えるほどうりふたつのロボット、皇帝がほんとうはどこかで休んでいるとき、彼が目の前に立っていると臣下に思わせるようなロボットを考案したのも、やはりエリックだった。
もちろん彼は、ペルシャから逃げ出したのと同じ理由で、トルコ皇帝のもとを去らねばならなかった。彼は知りすぎていたのだ。 |
長くなりすぎるので省略。 |
そこで、波乱万丈で破天荒で極悪非道な生活にうんざりした彼は、人並みの暮らしに憧れるようになった。彼は建築請負業者になった。普通の煉瓦を使って、普通の人の家を建てる、普通の請負業者だ。
彼は、オペラ座の基礎工事の一部を落札した。あのような巨大な劇場の地下にもぐると、彼は芸術家・ボヘミアン・奇術師としての本能を呼びさまされた。それに、彼は相変わらず醜かった。彼は、地上の人々の知らない隠れ家を作り、そこで人目を避けて余生を送りたいと思うようになった――。 |
パリ編 |